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函館地方裁判所 昭和57年(ワ)114号 判決

原告

佐々木彰雄

被告

吉崎芳男

ほか三名

主文

一  原告と被告らとの間において、訴外亡吉崎美代子にかかる昭和五六年六月一二日発生の交通事故に関する原告の損害賠償債務は、被告吉崎芳男に対し金一四四二万三〇八〇円、同吉崎由美子及び同吉崎洋子に対し各四二五万七六九三円並びに同吉崎沙智子に対し金三五五万七六九三円をそれぞれ超えて存在しないことを確認する。

二  反訴被告は、反訴原告吉崎芳男に対し金一四四二万三〇八〇円及び内金一二四二万三〇八〇円に対する昭和五六年六月一二日から右完済に至るまで年五分の割合による金員、同吉崎由美子及び同吉崎洋子に対し各金四二五万七六九三円及びこれに対する昭和五六年六月一二日から各完済に至るまで年五分の割合による金員、同吉崎沙智子に対し金三五五万七六九三円及びこれに対する昭和五六年六月一二日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告の被告らに対するその余の各請求及び反訴原告らの反訴被告に対するその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じこれを三分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)らの連帯負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  本訴

1  請求の趣旨

(一) 原告と被告らとの間において、訴外亡吉崎美代子にかかる昭和五六年六月一二日発生の交通事故に関する原告の損害賠償(元本)債務は、被告吉崎芳男に対し金九五三万四五三九円、その余の被告らに対し各金三一七万八一八〇円を超えてそれぞれ存在しないことを確認する。

(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  反訴

1  請求の趣旨

(一) 反訴被告は、

(1) 反訴原告吉崎芳男に対し金二一六八万九三五四円及び内金一九六八万九三五四円に対する昭和五六年六月一二日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の、

(2) 反訴原告吉崎由美子、同吉崎洋子及び同吉崎沙智子に対しそれぞれ金六三九万六四五一円及びこれらの金員に対する昭和五六年六月一二日から各完済に至るまで年五分の割合による金員の、

各支払をせよ。

(二) 反訴費用は反訴被告の負担とする。

(三) 仮執行の宣言。

2  請求の趣旨に対する答弁

(一) 反訴原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 反訴費用は反訴原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  争いのない事実

1  本件事故

(一) 発生日時 昭和五六年六月一二日午前一〇時二五分ころ。

(二) 発生場所 松前郡松前町字朝日一〇六番地の一先丁字型交差点内路上(以下、「事故現場」という)。

(三) 加害車両 普通貨物自動車函四四ち五〇〇一(以下、「加害車」という)。

(四) 運転者 原告(反訴被告、以下、本・反訴を通じ「原告」という)。

(五) 事故の態様等 原告が加害車を運転し、交通整理の行われていない事故現場の丁字型交差点を西から東に(江差方面から福島方面へ)向けて国道上を進行中、同交差点を北(道々側)から南に向つて婦人用三輪自転車に乗つて進行中の訴外亡吉崎美代子(以下、「美代子」という)に加害車を衝突させて転倒させ、同人を頭蓋骨々折等の傷害により同日午前一〇時四〇分ころ死亡させたところ、事故当時雨が降つていた。

2  責任原因

原告は、加害車を所有し、これを自己のため運行の用に供していた。

3  美代子の地位及び反訴原告(被告、以下、本・反訴を通じ「被告」という)らとの身分関係等

美代子は、本件事故当時三四歳(昭和二二年二月一八日生)の主婦で、月一六万三七〇〇円(年齢別平均給与額)の収入があり、なお三三年の稼働が可能であつた(ホフマン係数一九・一八三四)。

そして、被告芳男は、美代子の夫であり、その余の被告らは、いずれも美代子の子である。

4  被告らの訴訟追行委任

被告らは、本訴に対する応訴及び反訴の提起、追行を本件訴訟代理人である弁護士らに委任した。

二  争点

1  原告の主張

(一) 美代子の逸失利益を算定するに当り、その収入から控除すべき生活費は、右収入の五割が相当である。

したがつて、美代子の逸失利益は、一八八四万一五四二円である。

(二) 慰謝料は八〇〇万円、葬儀費は四〇万円が相当である。

(三) 美代子の過失

前述のとおり、事故現場は、交通整理の行われていない丁字型交差点であるところ、美代子は、同所を横断するに際し、本来ならば一時停止標識のある交差点進入口で左右の安全を確認をしたうえ、自転車を降り横断歩道にそつて交通点を横切るべきであつたのに、右の措置をいずれもとらず、しかも加害車が接近し警笛を吹鳴しているにもかかわらず、雨中片手に傘を持ち他方の手でハンドルを握つた状態で自転車に乗り、漫然交差点に進入し、本件事故に遭つたのであるから、本件事故の発生につき美代子にも少なくとも三割の過失があつたというべきである。

(四) したがつて、原告が賠償すべき損害額は、前記(一)及び(二)の合計二七二四万一五四二円の七割に当る一九〇六万九〇七九円であるところ、相続により、被告芳男は、右の二分の一である九五三万四五三九円の、その余の被告らは、右の六分の一である各三一七万八一八〇円の損害賠償債権を取得した。

(五) そこで原告は、被告らに対し、本件交通事故に関し、被告らが各相続した右の各金員を超える損害賠償(元本)債務が存在しないことの確認を求める。

2  被告らの主張

(一) 美代子の逸失利益算定に当りその収入より控除すべき生活費は、右収入の三割と解すべきである。

したがつて、美代子の逸失利益は、二六三七万八七〇九円である。

(二) 美代子が本件事故で死亡することにより被告らの受けた精神的苦痛は甚大であつて、これを慰謝するには、被告芳男については六〇〇万円、その余の被告らについては各二〇〇万円が相当である。

また、被告芳男は、葬儀費として少なくとも五〇万円を支出したところ、これは社会通念上妥当な金額である。

(三) 更に、被告芳男は、自己の負担において本件の訴訟追行を委任した弁護士らに対し着手金五〇万円を支払い、かつ報酬として函館弁護士会報酬基準規程に基づく報酬を支払う旨約したが、そのうち二〇〇万円は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(四) 以上のとおりであるから、原告は、被告らに対し左の損害を支払う義務がある。

(1) 被告芳男に対し、

(イ) 美代子の逸失利益の相続分(二分の一) 一三一八万九三五四円

(ロ) 慰謝料 六〇〇万円

(ハ) 葬儀費用 五〇万円

(ニ) 弁護士費用 二〇〇万円

以上合計二一六八万九三五四円

(2) その余の被告らに対しそれぞれ、

(イ) 美代子の逸失利益の相続分(各六分の一) 四三九万六四五一円

(ロ) 慰謝料 二〇〇万円

以上合計六三九万六四五一円

(五) なお美代子には本件事故発生につきなんらの過失もなかつた。

(1) 美代子が事故現場である交差点を進行中に乗つていた自転車は、婦人用買物カゴ付三輪自転車であつて、二輪自転車と較べるとスピードの出にくい構造になつていること、同自転車が進行して来た道々石崎松前線は右交差点に接する部分が相当の上り匂配となつていて、自転車が交差点に進入する時点で相当減速されざるをえないこと等から、自転車の進行速度はかなり低速であつたと考えられる。他方、加害車は、制限速度(四〇キロメートル毎時)をはるかに超える高速度で、しかも美代子と衝突する直前に急ブレーキをかけるまで全く減速せずに進行していた。また、右衝突地点は、美代子が既に国道の過半を横断した地点であるから、美代子の交差点進入開始から衝突点まで、それなりの時間があつたはずである。このような事実からすれば、美代子が交差点に進入した時点においては、未だ加害車は交差点にそれほど接近しておらず、かなり距離を隔てた位置にあつたはずである。それ故、原告が制限速度を遵守して加害車を運転、進行させていたならば、加害車は、交差点を美代子が横断通過後に美代子と接触することなく通過しえたはずである。

(2) 原告は、加害車を制限速度をはるかに超える高速度で進行させていたばかりでなく、同車が国道中央線を超えて反対車線に入り込み、更に深く入り込もうとする状態のうちに美代子と衝突していること、及び交差点手前に存する道路標示(前方に横断歩道ありとの標示)上にしるされた同車スリツプ痕が既に反対車線方向に伸びていること、からすると、同車は、交差点付近の国道右カーブを、反対車線へのはみ出し禁止規制に違反して、自車線から中央線を超えて反対車線に入り込むように進行していたものであることが明らかである。

原告は、事故現場が道々との交差点となつていて、道々から人、車両が進入してくることが予想され、また交差点の先方直ぐには横断歩道があり歩行者のあることも考えられ、交差点手前にはその横断歩道の存在を示す道路表示、停止線が配置されていて、十分注意をすべき地点とされているのに、そして現に美代子が既に交差点内を進行していたにもかかわらず、美代子に気づかなかつたか、あるいは気づいたとすれば、反対車線に入り込んで美代子の右側を通り抜けることができると軽卒に考えてか、高速度のまま、はみ出し禁止規制があるのにこれに違反して反対車線に入り込むように加害車を運転していたものである。

原告がこのような運転をせず、加害車を自車線内で進行させていたならば、交差点を美代子が横断通過した後に安全に通過できたものである。

(3) 以上のとおり、本件事故は、専ら原告の前記二重の交通違反行為によつて惹起されたもので、美代子は、原告の右違反がなければ安全に交差点を横断できるように進行していたのであるから、何ら過失がない。

(六) そこで、原告に対し、被告芳男は二一六八万九三五四円及び内金一九六八万九三五四円(弁護士費用を除く損害金)に対する本件事故発生日である昭和五六年六月一二日から右完済に至るまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金を、その余の被告らは各六三九万六四五一円及びこれに対する右日時から完済に至るまでの同じく年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うよう求める。

第三証拠

本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりである。

第四争点に対する判断

一  損害(ただし、弁護士費用は後記)

成立に争いがない甲第一二号証、乙第一、第二号証、被告芳男(兼被告由美子、同洋子及び同沙智子の親権者父)本人尋問の結果によれば、美代子は、本件事故当時、被告芳男(昭和二五年九月二五日生)の妻として、また被告由美子(昭和四八年一〇月一三日生)、同洋子(昭和四九年一一月一一日生)及び同沙智子(昭和五四年一月一二日生)の母として、被告らと家庭生活を営んでいたことはもちろんのこと、被告芳男の両親(父彦由当年六〇歳、母マスヱ当年五八歳)及び同被告の妹(昭和三一年七月一三日生れで、松前道立病院に看護婦として勤務)とも同居していたこと、そして家事にたずさわるかたわら、彦由と被告芳男が共に営む漁業(年収約五〇〇万円)の手伝い、例えば魚の陸揚、運搬、所有漁船の清掃、コンブの乾燥手入れ等もしていたこと、本件事故で美代子が死亡したため、その葬儀費として、被告芳男が約一八〇万円を出費したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  右のような美代子の家族構成、同居者数、被告芳男らの年収額、その他その居住地域等にかんがみると、美代子自身の生活費としては、その収入の多くとも三割五分程度で足りたものと解せられる。

したがつて、美代子の逸失利益は、二四四九万四五一六円(163.700×12×0.65×19.1834=24.494.516円)と認める。

2  右認定のとおり、被告芳男は現に美代子の葬儀費として約一八〇万円を支出したというのであるから、被告芳男の主張する葬儀費五〇万円は、社会通念上必要かつ妥当な額の範囲内に含まれるものとして、これを肯定すべきである。

3  慰謝料については、以上において摘示した諸事情、並びに本件事故当時における各被告らの年齢等を勘案して、被告芳男には五〇〇万円、同由美子及び同洋子には各二〇〇万円、同沙智子には一〇〇万円がそれぞれ妥当と認める。

二  過失相殺

前記争いない事実に、成立に争いのない甲第二ないし第六号証、同第九、第一〇号証、同第一四ないし第一七号証並びに原告本人尋問の結果を綜合すると、次のような事実が認められる。

1  事故現場及びその付近の状況は、別紙図面のとおりであつて、歩車道の区別のある(車道幅員九・二メートル、歩道幅員二・五メートル)ほぼ東西に走る舗装されかつ平坦な国道(二二八号線)の北側に、歩車道の区別のない幅員八・二メートルの道々(石崎松前線)が丁字型に交差する地点の国道上中央線寄りの場所で本件事故が発生した。国道は、右交差点付近から西方向、すなわち福島方向に向つて右にゆるくカーブしており、また道々は、国道に交差する付近が国道側に向つてやや上り坂となつている。右交差点では交通整理が行なわれていなかつたが、国道には同交差点の福島方向寄りに横断歩道とその標識が設置されているし、道々には国道に入る手前に一時停止線及びその標識があつた。当時、若干の西風とともに雨が降つていて、路面が濡れていたけれども、風雨のため見透しが悪いという状態ではなかつた。

なお、原告は、当日までに月に一五往復程度同所を運転通行することがあつたから、右交差点付近の状況を承知していた。

2  原告は、本件事故当日、福島町に食料品の買物に赴くため、助手席に妻の増子と叔母の佐々木ヒロ子の二名を同乗させて、時速約五五キロメートル(なお法定の制限速度は四〇キロメートル毎時)の速度で加害車を運転し、午前一〇時二五分ころ、事故現場付近の別紙図面〈1〉点(以下、〈1〉あるいは〈イ〉などの記号を表示する場合、それはいずれも別紙図面の表示を意味する)に達し、その時、向つて左前方約五八メートル先の〈ア〉点に、片手に傘を持ち、その傘で上半身をおおい隠すようにして婦人用三輪自転車に乗つている美代子を認めたが、国道を横断するからには美代子が既に左右の安全を確認し、加害車の進行を知つているものと信じ、停止してくれるものと思つて、減速等の措置をとらず漫然なお同一の速度で進行し、そして〈2〉点で、道々側から国道の(加害車の進路に当る)車道線付近(〈イ〉点)に来た美代子に対し警告すべく、短く一回クラクシヨンを鳴らしたものの、美代子はこれに気ずく風もなく、右車道内に入り横断し、前方約二八・三メートルの〈ウ〉点まで来るのを〈3〉点で認め、危険を感じて突嗟にブレーキを踏み、かつ衝突を回避すべくハンドルを右に切つたが間に合わず、加害車を〈4〉点で自転車の右横に衝突させて、美代子を転倒させ、頭蓋骨々折等の傷害により午前一〇時四〇分ころ、美代子を死亡させるに至つたが、美代子は、この間、〈ア〉点にいた時と全く同じ態様で自転車に乗つて横断進行し、進行をためらうそぶりも、加害車の方を見ることもなかつた。

以上のような事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の認定事実によれば、本件事故発生につき原告に過失があつたことはいうまでもないが、原告は、美代子を発見した最初の段階で、美代子が安全を確認しているものと信じ、停止してくれるものと思つたというところ、これは、国道上を運転進行していた者の心理として、あながち批難しがたいところがあり、他方、美代子は、国道を横断するに際し、左右の安全を確認したような形跡が全くなく、雨中とはいえ、傘を片手に、しかもその傘で上半身をおおう形で自転車に乗り、横断歩道がすぐ近くにあるのに、これを利用せず横断したもので、それ自体、常識的にみて、無謀とさえ評価できなくもなく、このような美代子の不注意な行動も、本件事故発生の一因を形成しているものと解せられるから、この不注意は、原告が被告らに対し賠償すべき損害額を算定するに当つて当然斟酌する割合は、以上の認定事実等諸般の事情を考慮して、少なくとも三割は下らないと認める。

三  弁護士費用

前記争いない事実並びに被告芳男本人尋問の結果によれば、被告芳男は、自己のため並びにその余の被告らを代理して、弁護士嶋田敬、同菅原憲夫及び同嶋田敬昌の三名に対し、本件の訴訟追行(本訴に対する応訴、反訴の提起とその追行)を委任し、着手金として五〇万円を支払つたほか、報酬として、函館弁護士会報酬基準規程に基づく報酬金を支払う旨約したことが認められる。

ところで、本件訴訟の事案内容、審理経過、立証の難易度等にかんがみると、原告の不法行為と相当因果関係が認められる弁護士費用としての損害は、原告の賠償すべき(したがつて、前記の過失相殺後の)損害金の一割をもつて相当と解すべきである。

四  結論

1  以上のとおりであるから、原告は、被告芳男に対し一四四二万三〇八〇円(美代子の逸失利益の相続分―二分の一に当る一二二四万七二五八円、葬儀費五〇万円、慰謝料五〇〇万円の合計一七七四万七二五八円の七割の一二四二万七二五八円に弁護士費用二〇〇万円((原告が被告らに賠償すべき損害額の総額は二四四九万六一五九円で、したがつて、前述のとおりその一割が、すなわち二四四万九六一五円が相当因果関係のある損害といえるが、被告芳男は、本件の訴訟では内金二〇〇万円のみを請求している))を加えた額)、被告由美子及び同洋子に対し各四二五万七六九三円(美代子の逸失利益の相続分―六分の一に当る四〇八万二四一九円と慰謝料二〇〇万円の合計六〇八万二四一九円の七割)、被告沙智子に対し三五五万七六九三円(美代子の逸失利益の相続分―六分の一に当る四〇八万二四一九円と慰謝料一〇〇万円の合計五〇八万二四一九円の七割)及びこれら金員(ただし被告芳男に関しては前記弁護士費用額を控除した金員)に対する不法行為の日である昭和五六年六月一二日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。

2  ところで、本訴の債務不存在確認請求は、本件事故によつて原告が各被告に対し負担する損害賠償債務(ただし遅延損害金債務は除く)が、原告の提示額(すなわち、被告芳男に対し九五三万四五三九円、その余の被告らに対し各三一七万八一八〇円)を超えて存在しないことの確認を求めるものであるが、それは、原告の提示を超える無限大までの債務が存在しない旨の確認を求めている趣旨では決してないというべく、本件紛争の実態にかんがみると、本件事故をめぐる賠償額に関する原告(債務者)と被告(債権者)ら間の各主張のくい違い、すなわち、原告の負担する賠償額が、原告の提示額につきるのか、それとも被告らの主張額(本件に則していれば、反訴請求額)まで達するのかという点が当事者間の真の争いを形成しているのであるから、本訴の訴訟物は、被告らの主張額と原告の提示額との差額の債務の存否であると解すべきである。

3  そうだとすると、原告は、前述のとおり、被告芳男に対し一四四二万三〇八〇円、被告由美子及び同洋子に対し各四二五万七六九三円並びに被告沙智子に対し三五五万七六九三円をそれぞれ超える損害賠償債務は負担していないのであるから、右の各額を超える部分につきその不存在は理由があるというべく、これは認容すべきであるが、原告の提示額を超えて右の各額までの債務は存在するので、この部分は理由がなく棄却すべきである。

また、反訴請求については、前説示(1)の各限度で理由があるから認容し、右各限度を超える請求部分は理由がないので棄却することとする。

そして、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大澤巖)

別紙図面

〈省略〉

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